毎日1時間の水素吸入が自律神経のバランスを整え、降圧効果を発揮
慶應義塾大学医学部内科学(循環器)教室の佐野元昭准教授、同大学医学部の小林英司特任教授、同医学部救急医学教室の多村知剛助教の研究グループは、日本獣医生命科学大学獣医保健看護学科の袴田陽二教授らとの共同研究により、毎日1時間の水素吸入に、高血圧モデルラットの血圧を下げる効果があることを証明したと発表した。
これまで慶應義塾大学水素ガス治療開発センターでは、高い精度、再現性、ヒトへの外挿性(推定性)を有する実験動物モデルを開発し、ストレス反応に伴う身体の器質的あるいは機能的な障害を水素が予防あるいは軽減させることを報告している。
さまざまなストレスによって交感神経が過度に活性化されると、血圧が上昇するだけでなく、脈が速くなり、この状態が長く続くと動脈硬化が進行し、腎臓を流れる血流量が減って尿をつくる能力が落ちるなど、臓器に対して直接悪い影響を与える。高血圧の治療の目標は、臓器の障害を抑制して、脳卒中・循環器疾患を予防することにある。そのためには、単に血圧を下げるだけでなく、交感神経の過度な活性化の抑制を介して降圧させる治療戦略こそがより理想的であるとされる。
研究グループでは、解明した水素吸入の降圧効果は、交感神経活動を規定している脳に効いて、交感神経の過度な活性化を抑えるという機序に基づくものと考えられるとしている。
本成果を発展させることで、日常生活における定期的水素吸入が、交感神経活性の亢進を抑えて、血圧を安定化させる、脳卒中や循環器疾患の予防法・治療法となることが期待される。また、中国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による重症の肺炎の治療に水素吸入が活用された報告もあり、研究グループは今後、このような水素ガスの別の効果も検証していく予定としている。
本成果は、2020年11月26日(英国時間)英国ネイチャー出版グループの『Scientific Reports』電子版に掲載された。
本研究は、JSPS 科研費 16K11420 および大陽日酸株式会社からの支援によって行われた。